“未完”で生きるという選択
- 西村公志
- 5月20日
- 読了時間: 4分
パーパス思考とプロセス志向
「もっと健やかに、もっと自分らしく」。そんな願いをもつあなたと共に「未来志向の健幸(けんこう)」をテーマに、身体・心・社会とのより良い関係性を紐解いていきます。今回のテーマは「未完で生きるという選択」です。

完成を急がなくてもいい
社会には「完成された姿」が溢れています。SNSに並ぶ洗練された日常、結果を求められるビジネス、効率化された学び。いつしか私たちは「完成しなければいけない」と思い込むようになりました。
でも、本当にそうなのでしょうか?
人は常に変化の途上にいて、感情も環境も日々変化し揺らいでいる。「未完であること」そのものに、実はウエルビーイングのポイントが隠されているのかもしれません。
完成至上主義から、プロセスを楽しむ思考へ
未完は“終わっていない”のではなく、“育っている”状態
ゴール思考の疲れ
「いつ結果が出るのか」「いつになったら理想の自分になれるのか」そうした思考に縛られると、今この瞬間にある小さな手応えや余白を見失いがちです。
結果だけを追う思考は、時に焦燥感や自己否定を生み、“完璧でなければ意味がない”という誤った前提を強化してしまいます。
未完を受け入れる美意識
日本文化には「侘び寂び」という言葉があります。それは、壊れた茶碗の継ぎ目に美しさを見出したり、枯れかけた花に風情を感じたりする感性。「不完全であること」にこそ、味わいや深みがあるという逆転の美学です。

完成ではなく、成長・変化・余白に価値を置く。その視点は、現代におけるウエルビーイングの再定義につながるかもしれません。
パーパス(目的)とプロセス(過程)を両立させる
「なぜやるのか」と「どう進むか」はセットで考える
パーパスだけでは苦しくなる
近年、企業や個人でも「パーパス(存在意義・目的)」が注目されています。けれど、目的ばかりが強調されると、「まだそこにたどり着いていない自分」に苦しみを感じることもあります。
プロセス志向がパーパスを支える
目的があるからこそ、「いま、ここにいる意味」が生まれる。でも、その途中経過を味わえなければ、道のりは空虚になってしまいます。
今日できた、小さなチャレンジ
途中でわかった、自分の気持ちの変化
完成していなくても、誰かと分かち合えたこと
そんなプロセスの豊かさが、パーパスの重みをやさしく支えてくれるのです。
未完を肯定して生きる3つのポイント
“足りなさ”ではなく“伸びしろ”として見る
1. ゴールより、「今の問い」を持つ
問いを持っている状態は、未完であることを自覚しながら前に進む姿勢。完璧な答えより、「自分にとって大切な問いは何か?」を見つけることが、人生の軸になります。
例えば「なぜ私はこれをやりたいのだろう?」「いま大切にしたいものは何だろう?」
2. 小さな“進捗”を祝う習慣を持つ
To Doリストではなく「できたリスト」を作る。毎晩、自分に「今日一歩進んだことは何か?」と問いかける。
数字だけで測らなくていい
感情の変化や気づきも“進捗”として数える
3. 不完全な自分を「受け容れる」勇気

まだ途上で答えはない。でもそんな自分をさらけ出すことで、人間関係には深みをもたらすのではないでしょうか。共感や対話は、“未完成”だからこそ生まれるのかもしれません。
完成していなくても過程を楽しんでみる
ありたい完成図をいつも夢想しておく
未完だから私たちは明日を生きられる
「わたしはまだ、完成していない。だから、わたしには未来がある。」 ル・コルビュジエ(1887–1965/フランス/建築家)
「ちゃんとできていない」「まだ自信がない」「もっと良くならなきゃいけない」
そんな言葉が浮かんだときは、こう考えてみてください。 未完であることは、可能性のしるし。それは、今もなお生きて伸び続けている証です。
誰もが誰かのライフセーバーに
みんなを救うヒーローじゃなくていい。ほんの少し、周りを見渡して。悩んでいる人、困っている人がいたら、そっと心を寄せてみませんか。「見てくれている人がいる」という安心が、社会のあたたかさを育てていきます。 lifesaver.love
【参照文献・出典】
Carol Dweck (2006). Mindset: The New Psychology of Success
Simon Sinek (2009). Start with Why
国際教養大学『未完の人間としての成長論』(2021)
日本美学会:侘び寂びとプロセス美の比較研究(2020)
ル・コルビュジエ著作・講演録より再構成