感性の再起動 香り・光・触感によるウエルビーイングへの刺激
- 西村公志
- 5月13日
- 読了時間: 4分
“感じる力”を取り戻すということ
「もっと健やかに、もっと自分らしく」。そんな願いをもつあなたと共に「未来志向の健幸(けんこう)」をテーマに、身体・心・社会とのより良い関係性を紐解いていきます。今回のテーマは「感性の再起動」。

体験が“感情”をつくる
感性が鈍ると、心も乾いていく
現代人の多くは、「思考過多・感覚不足」の状態にあるといわれています。けれど本来、幸福感や安心感は“体感”から生まれるもの。美しい景色に胸を打たれたり、誰かの手のぬくもりにほっとしたり。それは感性の回路が開いている証です。
ポジティブ心理学の研究でも、「小さな感覚刺激の蓄積」が、慢性的ストレス・抑うつ・不安の軽減に役立つとされています。
香り・光・触感は“心のスイッチ” 3つの感覚刺激が、感情のリズムを整える
香り:記憶と感情に直接アクセスする力
嗅覚は、他の感覚とは異なり大脳辺縁系(感情中枢)にダイレクトに届く感覚です。好きな香りを嗅ぐだけで、心拍が落ち着き、不安が軽減されたという研究もあります。
生活の知恵
ラベンダー:リラックス・不安の軽減
ベルガモット:気分の高揚
サンダルウッド:集中と深い安定感
香りは、「思考を介さず、感情に触れる数少ない刺激」なのです。
光:心のサーカディアンリズムをつくる
人の心と体は、光のリズム(体内時計)と密接に連動しています。朝の光を浴びるとセロトニンが分泌され、夜にはその材料がメラトニンに変わり、自然な眠りへと導いてくれます。
また、色温度・明るさ・方向性を工夫するだけで、集中力や気分にも変化が出ます。

生活の知恵
朝は自然光に近い「青白い光」
夜はろうそくや間接照明のような「暖色系」で“副交感神経モード”に
触感:やわらかさ、温かさ、手ざわりの記憶
肌に触れるもの――服、タオル、木の椅子、マグカップの質感。それらは無意識に**「安心・親密さ・やすらぎ」の感情を呼び起こす装置**になります。
研究では、「心地よい触感のある空間」で過ごす人は、共感性や他者信頼度が高まるという報告も。 生活の知恵
柔らかいブランケット
木や土など、自然素材の手触り
スキンケアの「自分に触れる」習慣も有効
感性を目覚めさせる3つの習慣 五感を使えば人生が立体的に
1. 朝の「香りジャーナル」を持つ
一日の始まりに、香りを使って自分の“心の状態”を観察する。「今日はこの香りを選んだ自分って、どんな気分だろう?」
生活の知恵
香り付きのノート・メモ帳を活用
香りと気分を3行日記に書き留める
2. 光のスイッチで“心の天気”を変える
部屋の光を調整するだけで、心の状態も変わります。朝・昼・夜の光を「切り替え式」にすることで、感情の波を穏やかに整えられます。
生活の知恵
デスク照明を1日3回変える
スクリーンのブルーライトカットで脳を休ませる
3. 「触感リトリート」を日常に
感覚の静かな場所をつくる。週末の朝1時間だけ“触感にこだわる時間”を設けてみる。

生活の知恵
スマホを置いて、素材を触る(木・土・陶器など)
靴を脱ぎ、裸足で床や地面を感じる
洗顔・保湿・服の質感を「手で味わう」
感性を取り戻すことは命の輪郭を取り戻すこと
「目に見えないものにこそ、真実が宿る」 アントワーヌ・ド・サン=テグジュペリ(1900–1944/フランス/作家)
幸福は、どこか遠くにあるものではなく、今、五感で触れたものがやさしく教えてくれるものかもしれません。
「香りが心をふわっとゆるめてくれた」「手触りに安心した」「朝陽で今日の気分を整えられた」
そんな“小さな感じる力”の積み重ねが、人生をもう一度、感覚と感情のある立体的なものにしてくれるのではないでしょうか。
誰もが誰かのライフセーバーに
みんなを救うヒーローじゃなくていい。ほんの少し、周りを見渡して。悩んでいる人、困っている人がいたら、そっと心を寄せてみませんか。「見てくれている人がいる」という安心が、社会のあたたかさを育てていきます。 lifesaver.love
【参照文献・出典】
Russell, J. A. et al. (2019). Sensory input and emotion regulation: A neuropsychological perspective
Harvard Health Publishing (2022). The health benefits of nature and sensory immersion
香りと記憶に関する研究:東北大学加齢医学研究所(2021)
日本感性工学会『五感と幸福感の相関研究』(2023)
サン=テグジュペリ著『星の王子さま』より要素再構成