自己肯定感を育む 承認と共感の大切さ
- ACBaL
- 2月4日
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更新日:4月19日
「自分なんて・・・」と感じるひとたちへ
「どうせ私なんて」。 このような言葉を、何気ない日常の中で耳にすることは珍しくありません。SNSでは誰もが笑顔で成功をアピールし、「普通」でいることにすらハードルが高くなっている現代。そんな社会で育つ若者たちも、自分の価値や存在意義を見失いやすい環境に置かれています。

自己肯定感が低い状態は、学業や人間関係、さらには精神的な健康にまで影響を及ぼす深刻な問題です。誰かに認められた記憶が少ないまま、自分自身を肯定できなくなっている若者たち。その根底には「無条件で存在を受け容れられた経験」の欠如があるといわれています。
自己肯定感の現状とその背景
内閣府が実施した「我が国と諸外国の若者の意識に関する調査(令和元年)」では、日本の13〜29歳の若者のうち「自分自身に満足している」と答えたのはわずか45.1%。アメリカ(86.0%)やドイツ(82.5%)と比較すると、極めて低い水準にとどまってしまっています。
この背景には、過度な同調圧力、成果重視の評価社会、そしてSNSなどによる絶え間ない他者比較があると考えられています。「何者かにならなければならない」「常に成果を出さなければならない」という風潮の中で、失敗や未熟さを認める余地が与えられにくいのです。
また幼少期からの家庭環境や学校生活の中で、十分な承認体験を積めなかった人は、自分の価値を内側から感じにくくなります。他者の反応に依存する「条件付きの自己肯定感」に頼りすぎると、失敗や否定に過敏に反応してしまい、やがて自己否定へとつながるリスクが高まっています。
ありのままを認める力
心理学者のアルフレッド・アドラーは「人は他者から必要とされる時に、自分の価値を最も強く感じる」と述べています。裏を返せば、他者からの存在承認が不足している環境では、自分の価値を実感するのが難しいということです。
現代社会は利便性や合理性を追求する一方で、人間の「ありのままを認め合う力」を弱めてしまっているのかもしれません。
自己肯定感を育むためにできること
では、どのようにすれば、若者の心に「自分は大切にされている」「いていいんだ」という実感を届けることができるのでしょうか。以下に、日常生活の中でできる3つのアプローチをご紹介します。
1. 「結果」ではなく「存在」そのものを認める
「成績がよかったね」だけでなく、「毎日よく頑張ってるね」「いてくれてうれしいよ」といった、存在自体への承認が大切です。結果や能力に対する評価よりも、「あなたらしさ」への共感が、若者の心に深く届きます。

たとえうまくいかなくても、「失敗してもあなたの価値は変わらない」というメッセージを、言葉や態度で丁寧に伝えることが、無条件の自己肯定感を育てる土台になります。
その人の存在そのものに価値を見出すことは、目に見える成果よりもはるかに大きな力を持ちます。「いてくれるだけでうれしい」と心から伝えられた経験が、自己否定のサイクルを断ち切るきっかけになるのです。
2. 比較しない。唯一無二の「その人らしさ」を尊重する
「〇〇さんはもっとできてたよ」といった比較の言葉は、自己肯定感を傷つける最大の要因の一つです。人と違うからこそ意味があるということを、日常的に伝える姿勢が大切です。
個性を尊重する文化や言葉かけは、「違っていていい」という前提を社会全体に根付かせる第一歩になります。学校や家庭で「多様性」を実感できる場が増えるほど、若者は自分自身の価値を自然に受け入れられるようになります。
また、大人自身が「自分らしく生きている姿」を見せることも大切です。模範ではなく“等身大の人間”として関わることで、「未完成なままでいい」という感覚が伝わります。
3. 小さなチャレンジと成功体験を応援する
大きな目標や成果ではなく、日常の中の「できた」を丁寧にすくい上げること。朝きちんと起きられた、ご飯をつくって食べた、人と挨拶ができた。そうした小さな達成に気づき、認め、喜んでくれる存在がいることが、自己肯定感の醸成を後押しします。
本人のペースを尊重しながら、小さな一歩を共に喜ぶ関係性が、「挑戦してもいいんだ」という安心感につながります。挑戦に失敗しても、否定せず「やってみたこと」に価値を見出す声かけが、自己肯定感を育てる鍵です。
「どうせダメだし」と諦める前に「やってみようかな」と思える社会の土壌を、私たちはしっかりと耕し、次世代を生きる人たちへ繋げていくことが大切だと考えています。
生きているだけで希望 自分の価値を実感できる社会へ
こんな素敵な言葉があります、コピーライターの糸井重里さんが発したものです。
「あなたが生きているだけで、誰かにとっては希望なのです。」
糸井重里(日本 1948年〜、コピーライター・作家)
自分の価値を信じられない時こそ、周りの誰かが「存在することの意味」を言葉と行動で示すことが大切だと思うのです。
自分の価値を実感できる社会へ。それは、評価よりも共感、指導よりも対話を大切にする関係性のなかに育まれていくのではないでしょうか。
誰もが誰かのライフセーバーに
誰かの命を救うのは、医師やカウンセラーだけではないかもしれません。たったひと言「どうしたの?」と声をかけてくれたあの人。何も言わず、ただそばにいてくれたあの人。そうした誰かの存在が「自殺」という選択肢を遠ざけてくれると考えています。
私たち一人ひとりが、誰かの「ライフセーバー」になることが求められている時代です。その第一歩は、見えない心の声に静かに耳を澄ますことから始まるのではないでしょうか。

参考文献 内閣府『我が国と諸外国の若者の意識に関する調査(令和元年)』https://www8.cao.go.jp/youth/whitepaper/r01gaiyou/pdf/s1-1.pdf
文部科学省『自己肯定感を高め、自らの手で未来を切り拓く』https://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chukyo/chukyo0/gijiroku/__icsFiles/afieldfile/2017/06/27/1387211_07_1.pdf