つながりの力 孤立する若者を支える
- ACBaL
- 1月14日
- 読了時間: 4分
更新日:4月19日
見えていない孤立が若者の命を脅かしている
「学校にも家庭にも居場所がない」「SNSでつながっていても、本当の自分を話せる人がいない」 そんな声が、いま多くの若者から聞こえてきています。彼らが抱える孤独や孤立は、見えにくいからこそ深刻であり、時に命をも脅かす社会的リスクとなっています。
若年者の死亡要因1位は自殺
日本はG7諸国の中で唯一、15〜39歳の死因の第1位が自殺という国です。その背景には、経済的な不安や将来への漠然とした焦りだけでなく、「つながり」の喪失という静かな危機が横たわっています。
安心して話せる相手、見守ってくれる存在、失敗しても受け入れてくれる居場所。
それらがないまま、自分の価値を見失い、孤立していくなかで心が弱くなっていく若者たち。彼らを支えるために、私たち大人が果たせる役割は、決して小さくありません。

なぜ「つながり」が失われたのか
若者と孤立の実態
内閣府が令和4年に実施した「孤独・孤立の実態把握に関する全国調査」では、30代の女性の7.9%、50代の男性の7.3%が「しばしばある・常にある」と孤独を感じていると回答しています。また、孤独感を数値で測る間接的な調査でも、「やや高い〜非常に高い」スコアの回答者は全体の約半数に及びました。
さらに注目すべきは、孤独感に影響を与えた出来事の上位に、「家族との死別」(27.0%)、「心身の重大なトラブル」(17.7%)、「転校・転職・退職」(16.9%)といった人生の転機が並んでいることです。若者にとって、これらの変化は、自己肯定感や人間関係の基盤を揺るがす大きなストレスとなります。
見えない孤立とは
現代の若者が置かれている環境には、もう一つ大きな変化があります。それは、スマートフォンやSNSの普及によって「見えない孤立」が深まっていることです。SNSでの交流は一見、つながりを生んでいるようで、実際には「比較される」「見られている」というプレッシャーが強まり、自分らしさを出せなくなってしまう若者もいます。

加えて、かつて地域や家庭が果たしていた中間共同体としての機能が弱まった今、若者が安心して立ち寄れる場所が少なくなっていることも深刻な課題です。
誰もができる小さな「つながり」の実践
つながりは、特別な支援や大きな行動ではなく、日常のなかで自然に生まれるものです。以下に、地域の中で実践できる3つの関わり方を紹介します。
1. 日常の中で「見守る」関係をつくる
町内会の行事や地域の掃除、挨拶運動など、小さな接点でも「顔がわかる」「声をかけられる」関係は、若者にとって安心材料になります。
「おはよう」「最近、元気?」といった何気ない言葉が、「気にしてくれている人がいる」という感覚を育みます。強制的な関係よりも、「そっと見てくれている人がいる」ことが、心の拠り所になるのです。
2. 若者の声に耳を澄ます「聴き手」になる
大切なのは「問い詰めない」「評価しない」姿勢です。沈黙を恐れず、共に過ごす時間を大切にしましょう。「話してもいいよ」「聞くだけだから」そんな言葉が、若者の心の扉を少しずつ開いてくれるかもしれません。相手の言葉を奪わず、勝手に判断したり評価せずに、静かに落ち着いて耳を傾ける。それだけで、孤独の重みは半減することがあります。

3. 安心できる「居場所」づくりを支える
地域には今、子ども食堂、フリースペース、若者の居場所づくりの取り組みが広がっています。これらは、家でも学校でも職場でもない「第3の場所」として、孤立を防ぐセーフティネットの役割を果たしています。
支援者自身が無理をしない「ゆるやかな支援の輪」こそが、長く続けられる居場所づくりの鍵です。無理に成果を出そうとせず、ただ「一緒にいる」ことを重視する。そんな空間が、若者にとってかけがえのない命綱になるかもしれません。
大切なのは”そばにいる”こと
現場で聞かされた言葉を紹介させてください。 「つながりとは、手を取り合うことではなく、そばにいること。」
この言葉は、支援の本質を端的に表していると感じています。寄り添い、見守ること。言葉にせずとも、そばにいてくれる誰かの存在。それが、孤独を感じている若者にとって、何よりも心強い支えとなると思います。
誰もが誰かのライフセーバーに
誰かの命を救うのは、医師やカウンセラーだけではないかもしれません。たったひと言「どうしたの?」と声をかけてくれたあの人。何も言わず、ただそばにいてくれたあの人。そうした誰かの存在が「自殺」という選択肢を遠ざけてくれると考えています。
私たち一人ひとりが、誰かの「ライフセーバー」になることが求められている時代です。その第一歩は、見えない心の声に静かに耳を澄ますことから始まるのではないでしょうか。

参考文献
内閣府「孤独・孤立の実態把握に関する全国調査(令和4年)」
https://www.cao.go.jp/kodoku_koritsu/torikumi/zenkokuchousa/r4/pdf/tyosakekka_point.pdf