質問力 思考を深め人とつながる力
- 西村公志
- 4月22日
- 読了時間: 4分
“問い”は、あなたの内側を映す鏡
「もっと健やかに、もっと自分らしく」。そんな願いをもつあなたと共に「未来志向の健幸(けんこう)」をテーマに、身体・心・社会とのより良い関係性を紐解いていきます。今回のテーマは「質問力」。

「どうすれば、もっと前向きに生きられるのか?」「わたしは何を大切にしたいのか?」
私たちは日々、無意識に多くの“問い”を自分に投げかけながら生きています。けれどその「問い方」次第で、人生の景色は大きく変わるかもしれません。
問いは、思考を深め、人との距離を縮め、自分の価値観を照らし出す“内なるコンパス”。本コラムでは、そんな「質問力」の本質と、その磨き方を探っていきます。
なぜ“いい質問”は人を動かすのか?
問いには力がある
“正しい答え”を探すよりも、“いい問い”を持つことが、人生においてはるかに豊かな時間を生む。そう考える思想家や教育者は、古今東西に数多くいます。
哲学に学ぶ「問いの哲学」
古代ギリシャのソクラテスは、自ら答えを語るのではなく、相手に問いを投げかけながらその人の「内にある答え」に気づかせるという対話法=**“産婆術”**を用いました。
つまり問いとは、「正す」のではなく、「引き出す」もの。それが質問力=相手の内側に光を当てる力の原点なのです。
質問は、脳を動かすスイッチでもある
問いがあると、人は前向きになれる

脳科学が示す「質問の力」
スタンフォード大学の研究によれば、質問を受けた瞬間、脳は自動的に答えを探し始めるという働きがあるといいます。しかもポジティブな問いをされると、**報酬系(ドーパミン系)**が活性化され、前向きな気分が促されることが分かっています。
たとえば:
「なぜうまくいかなかったのか?」よりも、
「どうすれば次はもっとよくできるか?」
という質問の方が、行動意欲と創造性が高まりやすいのです。
教育やコーチングでも「問い」が鍵
近年、教育現場ではオープン・クエスチョン(開かれた問い)の重要性が強調されています。正解を当てるのではなく、「どう感じた?」「なぜそう思ったの?」という問いが、主体的な学びと探究心を育てるからです。
また、ビジネスやライフコーチングにおいても、「今、何が一番大切ですか?」「もし何の制限もなければ、何を選びますか?」といった問いが、自己理解を深めるきっかけになります。
“問い”を変えると、見える世界が変わる
1. 自分への問いを持つ「朝のひとことジャーナル」
1日のはじまりに、自分に問いを投げかけてみる。たとえば:
今日、私はどんな気分で一日を過ごしたい?
今日、誰にやさしさを渡せるだろう?
自分への問いかけは、心の軸をつくる習慣になります。
ヒント: 書くことが苦手でも、問いだけ書くだけでOK。
2. 相手との距離を縮める「開かれた問い」

「どうしてそう思ったの?」
「今の気持ちを一言で表すと?」
正解を求めない“開かれた問い”は、相手の安心感を育みます。会話を深めたいとき、信頼関係を築きたいときに有効です。
ヒント: 質問したら、すぐ答えを求めず「待つこと」が大切。
3. 行き詰まったときの「視点をずらす質問集」
「もし〇〇さんだったら、どう考える?」
「今とは逆の立場だったら?」
「1年後の自分は、なんて言うだろう?」
視点をずらす問いは、行動の選択肢や気づきを広げるヒントになります。
ヒント: ノートに「マイ質問集」を作っておくと便利。
問いが未来を創る
「正しい答えより、良い問いの方が人を育てる」 パウロ・フレイレ(1921–1997/ブラジル/教育学者)
“質問力”とは、賢くなるための技術ではなく、人と深くつながるためのやさしさの形でもあります。
答えを急がず、問いとともに歩く。その姿勢が、心の余白を生み、新しい景色を見せてくれるのかもしれません。
誰もが誰かのライフセーバーに
みんなを救うヒーローじゃなくていい。ほんの少し、周りを見渡して。悩んでいる人、困っている人がいたら、そっと心を寄せてみませんか。「見てくれている人がいる」という安心が、社会のあたたかさを育てていきます。 lifesaver.love
【参照文献・出典】
Paul Freire (1970). Pedagogy of the Oppressed
Stanford Brain Institute (2020). The Neuroscience of Questions
John Whitmore (2002). Coaching for Performance
National Institute for Educational Policy: 質問と学習動機の相関(2022)
哲学者ソクラテスの対話法に関する解説書(岩波講座哲学・2020)