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腸は静かな司令塔

脳と心を整える“脳腸相関”の実践学 感情は、どこで生まれているのか?


「もっと健やかに、もっと自分らしく」。そんな願いをもつあなたと共に、「未来志向の健幸(けんこう)」をテーマに、身体・心・社会とのより良い関係性を紐解いていきます。



今回は、「脳腸相関」です。

「ストレスでお腹が痛くなる」「大事な場面でお腹を壊す」「腸の調子が悪いとイライラする」…こうした経験は決して偶然ではなく“腸が感情に深く関わっている”という事実を裏付けています。

また「腹が立つ」「腹を割る」「腹が黒い」「腹をくくる」など、感情表現として「腹」を慣用するということが多いことでも理解ができるんのではと思います。


実際に、脳と腸は迷走神経などを通して常に双方向に情報をやりとりしており、腸の状態がそのまま感情、意欲、集中力、そして睡眠の質にまで影響を与えているのです。



脳と腸は静かに会話している 「第二の脳」としての腸の働き


腸から脳へ伝わる“安心”のシグナル


腸は「第二の脳」とも呼ばれています。その理由は、腸に約1億個以上の神経細胞が存在し、自律的に判断・調整する能力を持っているからです。さらに注目すべきは、脳→腸よりも、腸→脳への情報伝達の方が圧倒的に多いという事実。迷走神経の90%以上が腸から脳へと情報を送っています。


つまり、私たちが「安心」や「幸福感」を感じるベースは、脳の判断以前に“腸からの情報”に大きく依存しているのです。


睡眠・記憶・感情も腸しだい?


腸内で生み出されるセロトニン(感情安定ホルモン)やメラトニン(睡眠ホルモン)は、気分の安定・入眠・起床に深く関与しています。また近年では、腸内細菌と認知症(特にアルツハイマー病)との関連も指摘されています。

  • 2022年、JAMA Neurologyにて「腸内細菌叢の多様性の低下が、神経変性に関係する可能性がある」と報告

  • 日本でも、腸内環境を改善することで軽度認知障害(MCI)の進行抑制が期待できる研究が進行中

腸のケアは、“感情”だけでなく、「脳の老い」にも関わる予防アプローチなのです。




腸から自分を整える3つの習慣


身体の奥からマインドフルネスを育てる


1. 腸のリズムと睡眠のリズムを揃える

腸には“体内時計”があり、**1日のうちで活発になる時間帯(朝)と休む時間帯(夜)**があります。これを崩すと、腸内細菌のバランスが乱れ、気分の変動・集中力の低下・免疫力の低下などを招きます。

実践ヒント:

  • 夜22時以降は消化の負担になるものを避ける

  • 朝は白湯か常温の水で腸を優しく目覚めさせる

  • 寝る90分前の入浴で腸と脳の両方をリラックス


2. 発酵+食物繊維で「腸の声」を整える

腸は「音を発さない臓器」ですが、便通や肌、感情の揺れを通して**“静かな声”を伝えてきます**。その声に耳を澄ますためには、腸内細菌にとっての栄養=**発酵食品(味噌・ヨーグルト)+水溶性食物繊維(もち麦・海藻)**を意識的に取り入れることが大切です。

実践ヒント:

  • 毎日「1発酵+1繊維」を食事に組み込む

  • 自分の便の状態を“毎朝チェック”する習慣をつくる


3. よく噛む=腸とつながるマインドフルネス

よく噛むことは、消化吸収の補助だけでなく、「今ここにある食」を味わうためのマインドフルネス実践でもあります。

早食いや“ながら食べ”は、腸にとってストレスになります。逆に、噛む回数を意識することで副交感神経が優位になり、腸の働きが活性化し、気持ちも落ち着くのです。

実践ヒント:

  • ひと口につき15回以上噛む習慣

  • 最初の3分だけ、スマホを置いて“咀嚼に集中”する「食の瞑想」



静かな場所から生まれる、健やかさ


「人間の真の内なる声は、沈黙の中から聞こえてくる」

マハトマ・ガンディー(1869–1948/インド/思想家・活動家)



腸は、語らない。けれど、腸の声を感じ取る力を育てていくことは、自分を大切にするという行為の最も根源的なかたちです。


不調は、警告ではなく「気づいて」という呼びかけ。やさしくお腹に手を当て、深く呼吸し、今日一日を整える。その習慣こそが、脳と心、身体をなだらかにつなぎ直す“未来のセルフケア”になるのではないでしょうか。



誰もが誰かのライフセーバーに


みんなを救うヒーローじゃなくていい。

ほんの少し、周りを見渡して。悩んでいる人、困っている人がいたら、そっと心を寄せてみませんか。

「見てくれている人がいる」という安心が、社会のあたたかさを育てていきます。



【参照文献・出典】

  • Gershon, M. (1998). The Second Brain

  • Cryan, J.F. & Dinan, T.G. (2021). Microbiota and the Brain

  • JAMA Neurology (2022). Gut Microbiota Diversity and Cognitive Function

  • 日本消化器病学会:腸内環境と健康(2023)

  • 厚生労働省 e-ヘルスネット:腸内細菌とストレス・睡眠の関連

  • NHKスペシャル『腸のチカラ』(2021)より再構成


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