働く若者の心の疲弊 職場でのメンタルヘルス対策
- ACBaL
- 2月25日
- 読了時間: 4分
更新日:4月19日
「大丈夫」に隠された、静かな悲鳴
朝起きるのがつらい。通勤の電車に乗るだけで動悸がする。職場の人間関係に疲れ果て、笑顔が作れなくなっていく。

5人に1人がメンタルの不調
いま日本の若者たちの中に、こうした“静かな悲鳴”が増えています。厚生労働省の報告によれば、20代から30代の労働者のうち、実に5人に1人が「メンタルの不調を抱えている」と答えており、特に入社1~3年目の若年層で「うつ状態」や「適応障害」の傾向が強まっていることが明らかになっています。
一見、元気そうに見えても、「大丈夫」と口にしても、心の中では疲労が限界を超えている。そんな若者が、職場という環境で少しずつ、確実に傷ついているのです。
数字に現れる、若者の「心の疲弊」
厚生労働省の「労働者健康状況調査」(令和4年)では、20代〜30代の若年層において「強い不安、悩み、ストレスを感じている」と答えた人は全体の60%を超えていました。主な原因は「職場の人間関係」「仕事の質・量」「将来の見通しが立たないこと」などが挙げられています。
とりわけ新入社員や若手社員は、まだ自分なりの仕事の進め方が確立しておらず、指示を待ちつつも主体性を求められるという、矛盾する期待の中で揺れ動きます。また、「失敗してはいけない」「早く一人前にならなければ」というプレッシャーが、自らの心に過剰な負担をかけてしまうのです。
さらに、SNSなどを通じて「活躍している同世代」の情報が流れ込む現代では、自己評価がますます厳しくなりがちです。他人と比べ、自分は何もできていないと感じることで、知らず知らずのうちに自己否定が強まっていきます。
職場が「心のセーフティネット」になるために
心の疲弊が進行すると、体調不良、欠勤、長期の休職へとつながる可能性が高まります。しかし、それ以前の段階で適切な「気づき」と「関わり」があれば、深刻な状況を未然に防ぐことができます。
職場や周囲の大人が心がけたいのは、「問題が起きてから対処する」のではなく、「日常的に心の健康を守る」視点です。以下に、若年層のメンタルヘルスを支えるための3つの実践的アプローチをご紹介します。
1. 感情を言語化できる環境をつくる
「悩んでいることが話せない」こと自体が、若者を追い詰める要因となります。上司や同僚が「最近どう?」「困ってることない?」と声をかけるだけでも、心の壁を和らげるきっかけになります。
一方的な指導ではなく、「共に考える」姿勢や、「聴く時間を持つ」文化がある職場は、若者にとって安全な居場所になります。
2. ミスや悩みに「成長の材料/伸びしろ」という視点を添える
若者は失敗を恐れるあまり、自分を責めすぎてしまう傾向があります。そのときに、「これは成長のきっかけになるよ」といった声かけがあるだけで、心の受け止め方が変わります。
過剰な自己責任論ではなく、「一緒に乗り越えよう」という空気をつくることが、安心感と回復力を育てます。
3. 心が休まる時間と空間を保障する
仕事とプライベートの境界が曖昧になりがちな現代において、「意識的に休む」ことの重要性が高まっています。「休む=悪いこと」という風潮を職場全体で見直し、休暇や有給を取りやすくする文化を育てましょう。

また、静かなリフレッシュスペースや、同僚と雑談できる空間など、心の余白をつくる工夫も有効です。
社会全体で考える、若者と仕事の関係
今の若者たちは、「安定した職に就けば安心」とは言えない時代に生きています。終身雇用の崩壊、働き方の多様化、AIやグローバル化による職種の変化など、不確実性の高い社会に対する不安が常に背景にあります。
そのような中で、「働くとは何か」「どんな人生を歩みたいのか」を自分なりに見出すには、孤独ではなく対話が必要です。キャリア支援、メンタルサポート、ピアサポート、産業医の活用など、多面的な支援のネットワークが必要です。
若者を支えるために、職場だけでなく地域社会、家族、教育機関、行政が一体となって、心と人生に寄り添う仕組みづくりを進める必要があります。
休むことは生き抜くため
「休むことは諦めることではない。生き抜くための技術である。」 渡辺一枝(日本 1948年〜、作家・エッセイスト)
働き続けるためには、立ち止まること、回復することが必要です。その価値を、社会全体が再認識することが問われているのではないでしょうか。
誰もが誰かのライフセーバーに
誰かの命を救うのは、医師やカウンセラーだけではないかもしれません。たったひと言「どうしたの?」と声をかけてくれたあの人。何も言わず、ただそばにいてくれたあの人。そうした誰かの存在が「自殺」という選択肢を遠ざけてくれると考えています。
私たち一人ひとりが、誰かの「ライフセーバー」になることが求められている時代です。その第一歩は、見えない心の声に静かに耳を澄ますことから始まるのではないでしょうか。

参考文献
厚生労働省の「労働者健康状況調査」(令和4年) https://www.e-stat.go.jp/statistics/00450095