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親と子の心の距離 家庭内コミュニケーションの見直し

  • 執筆者の写真: ACBaL
    ACBaL
  • 2月18日
  • 読了時間: 5分

すぐそばにいるのに心が遠い


同じ屋根の下で暮らし、毎日顔を合わせているはずなのに、なぜか子どもと会話がかみ合わない。返ってくる言葉は「別に」「うるさいな」ばかり。



現代の家庭において「親子間の心の距離」を感じている保護者は少なくありません。とりわけ思春期以降の子どもは、急激な心身の変化と自我の確立を迎えるため、親とのコミュニケーションがうまくいかなくなることがよくあります。


しかし、その「すれ違い」が放置されると、子どもは家庭内で孤立し、やがては不登校や引きこもり、精神的不調、最悪の場合は自死へとつながる恐れすらあります。親子間のすれ違いを解消するには、まず「心の距離」に目を向け、丁寧にその橋をかけ直す必要があります。



親子コミュニケーションの変化と現代的課題


対話の機会をしっかりと創る


近年、家庭内のコミュニケーションに関する調査では、子どもとの対話時間の減少が顕著です。内閣府「子ども・若者白書(令和4年)」では、10代の子どものうち約3割が「家族との会話は1日10分未満」と回答しており、特に父親との会話が極端に少ない傾向が見られます。


また、スマートフォンやタブレット端末の普及により、家の中にいても家族と物理的に「一緒の時間」を過ごしていても、心理的には「別々の世界」にいるような状況が生まれています。無意識のうちに「話す時間」「向き合う時間」が減り、すれ違いが深まっていくのです。


加えて、経済的な不安や仕事のストレスなどにより、親自身が「心の余裕」を失っているケースも少なくありません。忙しさや不安が蓄積すれば、子どもへの対応はどうしても短絡的・一方的になりがちです。


一方、子どもたちは繊細で敏感なセンサーを持っており、「親が自分をどう見ているか」「本音を聞いてくれる人か」を鋭く感じ取っています。思春期の子どもが感情的になったり、会話を拒んだりするのは、「本音を言っても大丈夫」という信頼関係が築けていないサインかもしれません。



親と子の心の距離を縮める3つのアプローチ


親子間の心の橋をかけ直すには、「言葉の量」よりも「関係性の質」に目を向けることが大切です。以下に、親が実践できる3つのアプローチをご紹介します。


1. 聴くことに徹する ―「答えを出さない」勇気


多くの親は、子どもの話を聞くと同時に「どう導くか」を考えがちです。しかし、子どもが本当に求めているのは「理解してくれる人がいる」という実感です。



「それは困ったね」「そう感じたんだね」といった共感の言葉を返すだけでも、子どもは「わかってもらえた」と感じることができます。意見や指導よりも、「聴いてくれる安心感」が、心の距離を縮める鍵になります。


2. 子どもを「一人の人」として尊重する


親の立場では、つい「子どもだから」「私の言うことを聞くべき」と考えてしまいがちです。しかし、子どもも一人の人格を持つ人間です。年齢にかかわらず、自分の意見や気持ちを尊重してくれる相手には、信頼を寄せるようになります。


大切なのは、「命令」ではなく「対話」をする姿勢。親もときには自分の弱さや迷いを見せ、「私も考えながら生きているよ」と伝えることで、対等な関係性が築かれます。


3. 一緒に過ごす時間を「共有体験」に変える


言葉がなければ関係が深まらない、というわけではありません。むしろ、何かを「一緒にする」ことが信頼を育てることもあります。


一緒に料理をする、散歩に出かける、映画を観る、ゲームをする──。何気ない体験の中に、「あなたと一緒にいるのが嬉しい」というメッセージを込めることができます。

また、日常の中で「ありがとう」「助かったよ」といった感謝の言葉を意識的に伝えることで、家庭にあたたかな循環が生まれます。



距離があることを責めなくていい


親子であっても、心の距離が生まれるのは自然なことです。年齢、立場、価値観が異なるのだから、わかり合えない瞬間があるのは当然です。

大切なのは「距離があるからこそ近づく努力をする」という姿勢です。子どもからの反発や沈黙に傷つくこともあるかもしれませんが、それでも関係をあきらめず、対話の糸口を探し続けること。それこそが、子どもにとって「この人だけは裏切らない」という確かな信頼の土台になります。



子どもは私たちの鏡


子どもはあなたの言うとおりには育たない。あなたのしたとおりに育つのだ。 ジェス・ラリュー(米国 1934年〜、教育者)


子どもは、親の背中を見て生き方を学んでいます。完璧な親なんてきっといないでしょうか、けれども「真摯に向き合おうとしている姿勢」が、言葉以上に感受性豊かな子どもたちには届いているのだと思うのです。



誰もが誰かのライフセーバーに


誰かの命を救うのは、医師やカウンセラーだけではないかもしれません。たったひと言「どうしたの?」と声をかけてくれたあの人。何も言わず、ただそばにいてくれたあの人。そうした誰かの存在が「自殺」という選択肢を遠ざけてくれると考えています。


私たち一人ひとりが、誰かの「ライフセーバー」になることが求められている時代です。その第一歩は、見えない心の声に静かに耳を澄ますことから始まるのではないでしょうか。


日本子ども家庭総合研究所『家庭における親子コミュニケーション調査』 https://www.cfa.go.jp/resources/research/other/youth_kenkyu

教育相談学会『思春期の親子関係と自己肯定感に関する研究(2022年)』https://www.jstage.jst.go.jp/article/jesc/2022/0/2022_1/_article/-char/ja/

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