若者の夢と現実 希望を持ち続けるためにできること
- ACBaL
- 3月4日
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「夢を語れない時代」を生きる若者たち
「将来の夢は何?」という問いが、かつては明るく前向きなものとして受け止められていた時代がありました。しかし今、その言葉がプレッシャーや不安を呼び起こすという声が、若者たちの間で少なくありません。「夢を持てと言われても、現実が厳しすぎて想像もできない」「夢がない自分はダメなのかと思ってしまう」という声が聞こえています。

現代を生きる若者は、不確実性の高い社会環境に身を置いています。急速な技術革新、社会構造の変化、終身雇用の崩壊、進学・就職競争の激化、そして感染症の流行や戦争など、個人の力ではどうしようもない外的要因が、若者の未来を見通しにくくしていているように感じています。
「夢を描くこと」すら難しい時代に、私たちはどうすれば若者の心に「希望の種」を撒くことができるのでしょうか。
データが示す「希望格差」の実態
内閣府の「我が国と諸外国の若者の意識に関する調査(令和元年)」では、「自分の将来に明るい希望を持っている」と答えた日本の13〜29歳の若者はわずか58.3%。アメリカ(83.5%)、ドイツ(82.6%)と比較すると、20ポイント以上の差があります。
また、2023年に実施された日本財団の調査では、10代の約4人に1人が「将来に不安しかない」と回答。経済格差や家庭環境、学歴・職業差による「希望の格差」が、若者の自己評価や将来展望に大きな影を落としていることが浮き彫りとなりました。
若者の「夢」を取り戻すためにできること
夢とは、最初から明確なゴールである必要はありません。「こうなりたい」「やってみたい」「好きかもしれない」といった曖昧な願望や関心の芽を、誰かが一緒に育ててくれることで、次第にかたちになっていくものです。
以下に、若者の夢を支えるための3つのアプローチをご紹介します。
1. 「どんな夢?」ではなく「どんな気持ち?」かを聴く
若者に夢を問うとき、つい「具体的な目標」を聞きたくなってしまいますが、大切なのは「どんなことにワクワクするか」「どんなときに心が動いたか」を一緒に探ることです。
「今はまだ分からなくても大丈夫」「一緒に考えてみよう」というスタンスが、若者の心をゆるめ、自己探求の旅へと後押しします。

2. 「失敗してもいい場所」を保障する
夢の芽は、ときに挑戦や失敗の中からしか育ちません。にもかかわらず、現代社会では失敗を許容する土壌が乏しく、「間違える=ダメな人」と捉えられがちです。
安心して試行錯誤できる場、たとえば創作活動、ボランティア、地域でのチャレンジなど、「成果」を求めすぎない経験の機会が必要です。支援者や大人が、「失敗は前進の一部である」ことを体現して見せることも効果的です。
3. 小さな「できた」の積み重ねを可視化する
「夢」と聞くと遠くにある目標を思い浮かべがちですが、大切なのは日常の中にある「小さな達成感」です。今日の自分が昨日より少し前に進めた、という実感こそが、将来への自信と希望を育てます。
日記をつける、振り返りの場を持つ、周囲が「できたね」と声をかける。その積み重ねが「何かを目指してもいいかもしれない」という前向きな気持ちを生む土壌になります。
「夢」は一人では育てられない
夢は個人の内面から湧き出るものですが、それを育て、持ち続けるには、周囲の環境や関わりが不可欠です。
たとえば、信頼できる大人の存在、自分の話を本気で聴いてくれる人、否定しないで応援してくれる仲間──そうした「他者との関係性」こそが、夢の発芽を支える肥やしになります。
また、社会の側が「多様な生き方」を認める姿勢を持ち、成功や安定以外の価値を提示することも重要です。進学・就職以外のルート、地方での起業や就農、NPOやアート活動など、夢のかたちが多様であるほど、若者は「選んでいい未来」が増えていきます。
環境を整えることも先人の役目
「夢を持てと言うなら、安心して夢見られる場所を作ってほしい。」 若者支援団体の10代の若者の切実な言葉です。
夢は強制するものではありません。育まれる環境が整っていてこそ、若者は自分の言葉で「未来」を描くことができるのではないでしょうか。
誰もが誰かのライフセーバーに
誰かの命を救うのは、医師やカウンセラーだけではないかもしれません。たったひと言「どうしたの?」と声をかけてくれたあの人。何も言わず、ただそばにいてくれたあの人。そうした誰かの存在が「自殺」という選択肢を遠ざけてくれると考えています。
私たち一人ひとりが、誰かの「ライフセーバー」になることが求められている時代です。その第一歩は、見えない心の声に静かに耳を澄ますことから始まるのではないでしょうか。

参考文献 内閣府『我が国と諸外国の若者の意識に関する調査(令和元年)』 https://www8.cao.go.jp/youth/kenkyu/ishiki/h30/pdf_index.html
日本財団『若者の将来意識調査(2023年)』 https://www.nippon-foundation.or.jp/what/projects/eighteen_survey
若者支援機構『10代の声から考える「夢と社会」』 https://www.youthsupport.or.jp/voice/10s_dream_society